「金属アレルギーが心配なら、ステンレスを選べばいい」——そう言われることがあります。実際、ステンレスは優れた金属です。それでもLyviは、全体をステンレスで成形したピアスをつくっていません。素材としての強さと、ジュエリーとしての美しさが、必ずしも同じ方向を向かないからです。
ステンレスは強い。ただ、美しくはない
ステンレスの長所ははっきりしています。表面に不動態皮膜と呼ばれる極薄の膜を自らつくり、それが内部の腐食を防ぐ。だから水にも汗にも強く、変色しにくい。
問題は、その強さがそのまま加工のしにくさになることです。ステンレスは融点が高く銃造性に乏しく、硬く粘りがあり、削れば工具が傷み、曲げれば加工硬化してさらに硬くなる。真鍮やシルバーのように、細く繊細なラインを立ち上げたり、複雑な面の重なりをつくったりすることが難しい。
結果として、オールステンレスのジュエリーは輪郭が丸く、面が単調で、金属の厚みだけが目立つデザインに収束していきます。ギラつきのある白い光沢も、肌の色をきれいに見せる方向には働きません。つけていて安心でも、鏡を見たときに心が動かない。それはLyviの考えるジュエリーではありません。
「316L」という表記が、必ずしも316Lを意味しない
ひとくちにステンレスと言っても、グレードによって性質は変わります。
| グレード | 主な特徴 | ニッケル |
|---|---|---|
| 316L | モリブデンを含み、耐食性が高い | 含む(溶出は比較的少ない) |
| 304 | モリブデンを含まない汎用グレード。安価 | 8〜10%程度含む |
| それ以下 | 耐食性・組成のばらつきが大きい | 不明確な場合がある |
そして日本では、アクセサリーの素材表記に第三者検査が義務づけられていません。316Lと書かれていても、実際には304やそれ以下のグレード、あるいはステンレスに似た別の合金が使われている——そうした商品が流通し得る構造になっています。買う側に、それを見分ける手立てはほとんどありません。
「錆びない」「アレルギーが出ない」は、言い切れない
グレードが下がれば、ステンレスの利点は目減りします。塩分を含む汗、海水、高温多湿といった環境では、304は孔食(点状の錆)を起こすことがある。「ステンレスだから錆びない」は、条件つきの話です。
アレルギーについても同じです。ニッケルの溶出は316Lであってもゼロではなく、ごく微量ながら続きます。金属アレルギーは遅延型のアレルギー反応で、蓄積によってある日突然発症する性質を持ちます。素材名ひとつで絶対の安全を約束できる根拠は、本当はどこにもありません。
肌に触れる場所と、目に触れる場所を分ける
Lyviが選んだのは、一本のピアスの中で役割を分けることでした。
- ポスト(軸)には316Lステンレス(一部デザイン)。肌の中に入り、最も長く触れ続ける場所です。ここに求められるのは耐食性と安定性であって、造形の複雑さではありません。
- デザイン部分には、造形の自由がきく素材と厚膜コーティング。欧州規格EN1811に準拠したニッケル溶出基準をクリアした上で、光の反射や色の深さを設計します。
素材の名前ひとつで安全を約束するのではなく、どこに何を使い、どう仕上げるかで担保する。オールステンレスをつくらないのは妥協ではなく、美しさと安全性のどちらも降ろさないための選択です。